セルフケア・予防運動
2026.8.16
高平教授が語る「3Dジグリング」 股関節ケアにぴったりな理由:開発背景から論文で示された可能性、今日から知っておきたい実践の基本まで

「歩き始めに鼡径部、つまり脚の付け根が気になる」「長く歩くと殿部の奥が重くなる」「股関節が硬くなってきた気がする」。外来では、40代以降の女性からこうした声をよく伺います。痛みというほどではないけれど、以前と同じようには歩けない。靴下の着脱や階段で、ふと不安を感じる。こうした小さな変化は、股関節からの大切なサインかもしれません。
私は股関節疾患の診療と研究に長く携わる中で、股関節の治療には「正しく診断すること」と同じくらい、「無理なく続けられる運動を生活の中に置くこと」が重要だと感じてきました。そこで考案した運動療法の一つが、3Dジグリングです。
3Dジグリングは、股関節を大きく動かす運動ではありません。初めは小さく、立体的に、痛みのない範囲で動かすことを大切にします。この記事では、私が3Dジグリングを考えた背景、医学論文で報告されているジグリングの可能性、そして一般の方が実践する前に知っておいてほしい注意点をお伝えします。
この記事の要点 3Dジグリングは、股関節を「初めは小さく・多方向へ・痛みなく」動かし、自分の股関節の状態に気づいていくための運動療法です。
3Dジグリングとは、どのような運動か
3Dジグリングとは、股関節を一方向だけでなく、前後・左右・回旋方向へ初めは小さく動かす運動療法です。3Dとは三次元、つまり立体的という意味です。
医学的には、股関節には「屈曲・伸展」「外転・内転」「内旋・外旋」という運動があります。難しく聞こえるかもしれませんが、生活の言葉で捉えると、脚を前後に動かす、横へ開いたり閉じたりする、内外へ回す、ということです。
股関節は、骨盤側の「寛骨臼」に、大腿骨頭がはまり込む関節です。寛骨臼とは、骨盤側の受け皿のこと。大腿骨頭とは、大腿骨、つまり大腿部の骨の先端にある丸い部分のことです。私は患者さんに「股関節は、受け皿にボールが入っているような関節です」と説明することがあります。だからこそ、曲げ伸ばしだけでなく、いろいろな方向へ動く力を持っています。
ただし、動ける関節だからといって、強く動かせばよいわけではありません。股関節に不安がある方ほど、深く曲げる、大きくひねる、反動をつけるといった動きで痛みが出ることがあります。3Dジグリングで大切にしたのは、股関節本来の立体的な動きを、過剰な負担をかけずに引き出すことです。
開発の背景:一方向のジグリングから、股関節らしい立体運動へ
変形性股関節症では、歩き始めの痛み、可動域の制限、歩行距離の低下が起こります。変形性股関節症とは、股関節の軟骨や骨に変化が起こり、痛みや動きにくさが出る病気です。日本人では、寛骨臼形成不全が関係することも少なくありません。寛骨臼形成不全とは、骨盤側の受け皿が浅い股関節の特徴です。怖い名前ですが、まずは「自分の股関節の形に特徴があるかもしれない」と知ることが大切です。
保存療法、つまり手術以外の治療では、運動療法が重要な柱になります。しかし、患者さんに「運動しましょう」と伝えるだけでは、なかなか続きません。痛みが出るのではないか。やり方を間違えて悪くしないか。そもそも何をすればよいのか分からない。そう感じるのは自然なことです。
従来から、股関節に対するジグリング(貧乏ゆすり)、日常の表現では小刻みに揺らす運動が報告されてきました。座位で足部や下肢を小さく連続して動かす方法です。股関節に大きな負荷をかけずに行いやすい一方で、効果を期待するには長時間、そして長期間の継続が必要になることも課題でした。
私は、股関節が球に近い構造を持つ関節であることに着目しました。股関節は平面的に一方向へ動くだけの関節ではありません。屈伸、内外転、内外旋を組み合わせて、立体的に働いています。そこで、従来のジグリングの考え方を生かしながら、股関節をすべての方向へ小さく可動させる骨盤回しエクササイズとして、3Dジグリング法を考えました。その初めての記述は2016年に私が編集して出版した「体操療法オールブック」(メジカルビュー社)です。
論文では、何が検証されてきたのか
そして、医学的に2025年に私たちは「変形性股関節症に対する新たな運動療法――3Dジグリング」を報告しました。この論文では、3Dジグリングを、変形性股関節症に対する保存療法の一つである運動療法として位置づけています。従来のジグリング原法を踏まえ、動作開始時痛、つまり歩き出しや立ち上がりなど動き始めに痛みが出やすいという特徴から着想を得て、股関節を屈伸、内外転、内外旋のすべての方向へ可動させる骨盤回しエクササイズとして整理しました。
また、3Dジグリングの背景には、従来のジグリングに関する医学論文があります。Yoshizukaらの2021年の論文では、進行期・末期の変形性股関節症の患者さん9例を対象に、集中的なジグリングを行った経過が報告されています。評価されたのは、X線で見える関節裂隙幅、つまり骨と骨のすき間、そして疼痛などです。その結果、入院下で行われた集中的なジグリングが、関節裂隙幅や痛みの早期改善につながる可能性が示されました。
ただし、ここは丁寧に理解していただきたいところです。この研究は9例の後ろ向きケースシリーズです。後ろ向きケースシリーズとは、すでに行われた治療経過を振り返ってまとめる研究方法です。医学的には大切な報告ですが、「すべての方に同じ効果が出る」と約束するものではありません。
私も共同著者になっているTeramotoらの2020年の英文での症例報告では、変形性股関節症の患者さん2例に対して、保存療法としてジグリングを行った経過が報告されています。症例報告は人数の少ない医学的報告ですが、股関節に過剰な負荷をかけにくい運動が、臨床の中で選択肢となり得ることを考える手がかりになります。
論文でよい可能性が示されていても、私は患者さんに「痛みを我慢して続けてください」とは言いません。股関節の状態は一人ひとり違います。大切なのは、診断、画像所見、生活で困っていること、筋力、歩き方を合わせて見たうえで、その方に合った範囲で安全に続けることです。
3Dジグリングが股関節ケアに向いている理由
3Dジグリングが股関節ケアに向いている理由は、三つあります。
一つ目は、動きが初めは小さいことです。股関節に不安がある方ほど、大きなストレッチや強い筋力トレーニングに抵抗を感じます。3Dジグリングは、痛みのない小さな動きから始めます。小さい動きでも、股関節まわりの筋肉や感覚に働きかける入口になります。慣れてきたら徐々に大きくしていきます。
二つ目は、多方向に動かすことです。股関節は一方向だけでなく、立体的に働く関節です。歩く、方向転換する、階段を上る、ゴルフで身体を回す。これらの動きには、屈曲・伸展、外転・内転、内旋・外旋が組み合わさっています。3Dジグリングは、その股関節らしい動きを小さな範囲で思い出させる運動です。
三つ目は、続けやすいことです。運動療法は、正しくても続かなければ生活に根づきません。3Dジグリングは、運動能力を競うものではありません。ご自身の股関節の状態を感じながら、無理のない範囲で続けるケアです。朝のこわばり、長く座ったあとの動き出し、散歩の前後など、生活の中に置きやすいことも大切な特徴です。
私は3Dジグリングを「頑張る運動」ではなく、「股関節と会話する運動」と考えています。今日はどの方向が動きやすいか。どの動きで違和感が出るか。そうした小さな変化に気づくことが、股関節リテラシーの第一歩になります。
実践の基本は「初めは小さく、ゆっくり、痛みなく」
3Dジグリングを実践するときの合言葉は、「初めは小さく、ゆっくり、痛みなく」です。初めから大きく動かそうとしない。速く行おうとしない。痛みを我慢しない。この三つを守ってください。
器具を使う場合は、取扱説明や医師・理学療法士の指導に従います。理学療法士とは、身体の動きやリハビリテーションを支援する専門職です。自己流で可動範囲を広げるのではなく、安定した姿勢で、股関節を前後、左右、回旋方向へ小さく動かす感覚を大切にしてください。
実施中に鼡径部、殿部、大腿部、膝関節まわりに鋭い痛みが出る場合は中止します。その場では大丈夫でも、翌日に痛みが増える場合は、量や動かし方が合っていない可能性があります。股関節のケアは、痛みを乗り越えるものではありません。気持ちよく動く範囲を見つけ、少しずつ続けるものです。
「痛いけれど効いている気がする」という考え方は、股関節では危険なことがあります。身体は、無理に従わせるより、丁寧に付き合う方が応えてくれます。まずは短い時間から始め、違和感が強くならないかを確認してください。
実践の合言葉 「初めは小さく、ゆっくり、痛みなく」。この三つを守るだけで、股関節ケアは安全に近づきます。
セルフケアより、まず相談してほしいサイン
3Dジグリングは、股関節ケアの有用な選択肢になり得ます。ただし、すべての股関節痛に対して、自己判断で始めてよいわけではありません。
転倒後や尻もちのあとから痛む。痛い側の下肢に体重をかけられない。数歩歩くだけで強く痛む。発熱や腫れを伴う。安静にしていても痛む。夜間に痛みで目が覚める。急に歩ける距離が短くなった。このような場合は、セルフケアよりも医療機関への相談を優先してください。
すでに変形性股関節症、寛骨臼形成不全、FAI、関節唇損傷、大腿骨頭壊死症、人工股関節置換術後などを指摘されている方も、自己流で運動範囲を広げないことが大切です。FAIとは、大腿骨と寛骨臼が動きの中でぶつかりやすくなる状態のことです。聞き慣れない言葉ですが、「股関節を曲げたりひねったりしたときに、骨の形の影響で当たりやすい状態」と捉えるとわかりやすいと思います。
不安をあおるためにお伝えしているのではありません。自分の状態を知り、必要なときに相談し、できる範囲から続ける。その順番を守ることが、股関節を長く大切にする近道です。
まとめ:今日の小さな動きが、未来の歩き方を守る
3Dジグリングは、股関節を大きく、強く動かす運動ではありません。股関節を初めは小さく、多方向へ、痛みのない範囲で動かしながら、自分の状態に気づいていくケアです。
股関節は身体の奥にあるため、自分では状態が見えにくい関節です。けれど、歩き始めの違和感、靴下の履きにくさ、階段の不安、殿部の奥の重さなど、日常動作の中に股関節からのサインは現れます。
股関節を大切にすることは、将来の歩き方を大切にすることです。難しいことから始めなくて大丈夫です。まずは、痛みなく動ける範囲を知ること。そこから、身体との付き合い方は変わっていきます。
今日の小さな動きが、これからも歩き続けるための土台になるかもしれません。3Dジグリングは、その第一歩として、股関節にやさしく向き合うきっかけになる運動療法です。
よくある質問
Q. 痛みがある日も行ってよいですか?
痛みが強い日は行わないでください。軽い違和感であっても、実施中に痛みが増える場合や、翌日に悪化する場合は中止し、医療機関や理学療法士に相談してください。
Q. どれくらい続けるとよいですか?
自己判断で長時間行う必要はありません。まずは短時間から始め、痛みが出ない範囲で、専門家の指導や器具の取扱説明に沿って続けることが基本です。
Q. 3Dジグリングだけで変形性股関節症は治りますか?
3Dジグリングは股関節ケアの一つの選択肢です。変形性股関節症の治療は、病期、痛み、生活への影響、画像所見、筋力、歩行状態などを合わせて考える必要があります。運動だけで判断せず、必要に応じて診察を受けてください。
この記事で出てきた専門用語
用語 | 読み方・意味 |
|---|---|
股関節 | 骨盤と大腿骨をつなぐ関節。歩行、立ち上がり、階段昇降、方向転換などに関わります。 |
寛骨臼 | 骨盤側の受け皿。大腿骨頭を支える部分です。 |
大腿骨頭 | 大腿骨の先端にある丸い部分。股関節のボールにあたります。 |
鼡径部 | 脚の付け根まわり。股関節由来の痛みが出ることがあります。 |
殿部 | お尻の部分。股関節や腰椎、骨盤まわりの問題で違和感が出ることがあります。 |
変形性股関節症 | 股関節の軟骨や骨の変化により、痛みや可動域制限が出る病気です。 |
寛骨臼形成不全 | 骨盤側の受け皿が浅い股関節の特徴。日本人の変形性股関節症に関係することがあります。 |
保存療法 | 手術以外の治療。運動療法、生活動作の見直し、痛みの管理、補助具などが含まれます。 |
FAI | 大腿骨と寛骨臼が動きの中でぶつかりやすくなる状態。正式には大腿骨寛骨臼インピンジメントと呼びます。 |
参考文献
高平尚伸, 福島健介, 大橋慶久, 土屋真穂, 齋藤広樹, 内山勝文. 変形性股関節症に対する新たな運動療法――3Dジグリング. 別冊整形外科. 2025; 1(88):32-35.
Yoshizuka H, Sato T, Murakami J, Mitsutake T, Hiromatsu M. Short-term changes in radiographic joint space width after jiggling exercise as conservative treatment for hip osteoarthritis: A retrospective case series of nine patients. PLOS ONE. 2021;16(6):e0253643.
Teramoto Y, Fukushima K, Koyama T, Ohashi Y, Uchiyama K, Takahira N, Takaso M. Impact of Jiggling Exercise as Conservative Treatment for Hip Osteoarthritis: A Report of Two Cases. Case Reports in Orthopedics. 2020;2020:2804193.
日本整形外科学会・日本股関節学会. 変形性股関節症診療ガイドライン2024 改訂第3版. 南江堂; 2024.
体操療法オールブック.高平尚伸(編),メジカルビュー社;2016.
高平教授
北里大学大学院 医療系研究科 整形外科学/スポーツ医学、北里大学医療衛生学部 リハビリテーション学科 スポーツ・運動器理学療法学教授、北里大学大学院 医療系研究科 医学専攻主任。専門は股関節外科学。変形性股関節症の病態と治療の研究が専門で、最小侵襲手術(MIS)を手がけるなど、この分野のオーソリティとして活躍。リハビリテーション学にも精通し、股関節痛におけるセルフケアの重要性を啓蒙しながら、患者さん自身が簡単にできる運動療法の指導も治療に積極的に取り入れている。
東京2020オリンピック選手対応ドクターも務めるほか、メディアでも積極的に情報発信している。著書に『股関節痛 こわばり・だるさ・脚長差 自力で克服!名医が教える最新1分体操大全』『どんなに硬い体も柔らかくなる!名医が教えるすごいストレッチ』(文響社)など、ベストセラー多数。
