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北里大学

高平尚伸

教授

監修

みんなの股関節ストーリー

2026.8.14

【後編】股関節から変わる、 大人の歩き方・走り方  高平尚伸教授とオリンピアン川上優子が語る 「痛めない身体の使い方」 

後編|歩く・走るを続けるために、今日からできること

痛めない身体は、股関節からつくられる

股関節に不安があるとき、歩いた方がよいのか、休んだ方がよいのか。これは多くの方が迷うポイントです。健康のために動きたい。けれど、無理をして悪化させたくない。高平教授が最初に示した原則は、とても明快でした。

“使いすぎは避けるべきです。痛みや違和感がある場合には、負荷を急に増やさず、少しずつ、股関節に過度な荷重をかけない方法から始めることが大切です。”

- 高平教授 -

この記事でわかること

股関節に不安がある人が最初に意識したい運動の順番

仰向けで行う股関節運動が安全な理由

受診を検討したいサインと、日常でできる工夫

高平尚伸教授
整形外科医。股関節外科を専門とし、変形性股関節症、発育性股関節形成不全・寛骨臼形成不全、股関節唇損傷、人工股関節置換術などに長年携わる。

川上優子さん
オリンピアン。陸上競技で培った身体感覚をもとに、走る・支える・踏み込む動作を現場の言葉で語る。近年はゴルフにも取り組み、競技を横断して身体の使い方を探究している。

最初の原則は「使いすぎない。少しずつ」

ウォーキングやランニングは、健康づくりに有効な運動です。しかし、股関節に痛みや違和感があるときに、急に歩数や距離を増やすことは勧められません。特に股関節は荷重関節であり、立っているだけでも体重を支え、歩く・走る動作ではさらに大きな力を受けます。

川上さんも、競技経験から「身体が連動していない状態で頑張ると、どこかに無理が出る」と話します。走る現場では、脚だけで動こうとすると膝や腰に負担が逃げることがあります。これは一般の歩行でも同じです。

高平教授は、痛みがあるときほど「立って頑張る運動」から入らないことを勧めます。まずは体重をかけずに股関節を動かし、可動域や痛みの出方を確認する。そこから少しずつ、歩行や軽い運動につなげていくという順番です。

仰向けで始めると、股関節に過度な荷重をかけにくい

具体的には、仰向けに寝た姿勢で股関節を動かす運動が基本になります。足を伸ばしたまま、つま先をゆっくり上下・内外に動かす。膝を胸の方へ無理なく引き寄せる。股関節を外側・内側へ小さく動かす。いずれも、痛みのない範囲で、呼吸を止めずに行います。

“仰向けでは股関節に体重が直接かかりにくいため、痛みのある方でも比較的安全に可動域を確認できます。大きく動かすことよりも、痛みのない範囲でゆっくり動かし、股関節周囲の筋肉を過緊張させないことが重要です。”

- 高平教授 -

ここで大切なのは、ストレッチを「強く伸ばすこと」と考えないことです。痛いところまで引っ張る、反動をつける、左右差を無理にそろえる。こうした行為は、かえって防御的な筋緊張を高めることがあります。

川上さんは、現役時代から身体の感覚を細かく見てきました。小さな違和感を見逃さず、その日の動きの質を確かめること。これはアスリートだけでなく、股関節に不安を持つ大人の女性にとっても役立つ視点です。

歩幅や坂道のつらさは、股関節の動きと関係することがある

最近、歩幅が狭くなった。階段で脚が上がりにくい。坂道で股関節や大腿部が重くなる。こうした変化は、単なる体力低下だけでなく、股関節の可動域や周囲筋の働きと関係している場合があります。

高平教授は、股関節周辺を負担の少ない形で動かすことで、歩行時の脚の振り出しや歩幅が変わることがあると話します。ただし、効果の出方には個人差があり、痛みが強い場合や変形が進んでいる場合には、自己判断で運動を増やすのではなく、医学的評価が必要です。

立って行う場合には、壁や椅子につかまり、脚を振り子のように小さく動かす方法があります。ここでも、反動を使わず、股関節の奥がやさしく動く範囲にとどめます。

重心を高く保つと、歩き方の印象が変わる

対談の中で印象的だったのが、川上さんの「身体を引き上げておく感覚」です。走るとき、身体が沈み込むと脚だけで地面を押す動きになりやすく、股関節や膝に負担がかかります。逆に、頭のてっぺんを軽く引き上げられるような感覚があると、骨盤や股関節が動きやすくなり、歩行のリズムも整いやすくなります。

“重心を高く保つという表現は、医学的には姿勢制御や骨盤・体幹の安定性とも関係します。胸を無理に張るのではなく、体幹を過度に固めず、骨盤と股関節が連動できる姿勢をつくることが大切です。”

- 高平教授 -

年齢とともに、姿勢は少しずつ前かがみになりやすくなります。骨盤が後傾し、歩幅が狭くなり、股関節の伸展が出にくくなると、歩く姿も小さく見えてしまいます。だからこそ、強く鍛える前に「上に伸びる」「股関節の奥に余裕をつくる」という感覚を持つことが、日常の歩き方を変える入口になります。

3Dジグリングやボードは、股関節を“やさしく動かす”選択肢

高平教授は、股関節を小さく立体的に動かす3Dジグリングにも触れました。股関節周囲を過度に固めず、細かく揺らす・動かすことで、関節周囲の循環や可動性、姿勢感覚に良い変化をもたらす可能性があります。

ボードを用いた運動も、無理に筋力で押し込むのではなく、重心移動を利用して股関節をやさしく動かす方法として位置づけられます。猫背の改善、股関節周囲の負担軽減、歩行や競技動作の質の向上につながる可能性がありますが、症状や疾患の状態によって適否は異なります。

“どの運動も、すべての方に一律に適するわけではありません。痛みが強い場合、可動域制限が大きい場合、急な悪化がある場合には、まず整形外科で状態を確認することが必要です。”

- 高平教授 -

受診を検討したいサイン

股関節の違和感が軽い段階では、運動量を調整し、負担の少ない動きから整えることで改善を目指せることもあります。一方で、次のような場合には、早めに整形外科で相談することをお勧めします。

このような場合は、整形外科への相談を検討

脚の付け根の痛みが続く、または徐々に強くなっている

歩き始めだけでなく、長く歩くほど痛みが増す

夜間痛や安静時痛がある

靴下を履く、爪を切る、階段を上るなどの日常動作がつらい

跛行がある、左右差が強い、急に歩きにくくなった

転倒後の痛み、強い痛み、発熱などを伴う痛みがある

早く受診することは、すぐに手術を意味するわけではありません。画像検査や身体診察によって現在の状態を把握し、運動療法、生活動作の工夫、疼痛管理、必要に応じた専門治療など、複数の選択肢を検討するための第一歩です。

年齢のせいにしない。けれど、無理もしない

今回の対談で見えてきたのは、股関節を守ることは「動かさないこと」ではない、ということです。むしろ、負担の少ない方法で動かし、少しずつ可動性を取り戻し、身体全体の連動を整えていくこと。それが、歩くことや走ることを長く楽しむための土台になります。

川上さんのようなアスリートは、身体の小さな変化を手がかりに動きを磨いてきました。その感覚は、40代以降の女性にも応用できます。昨日より歩幅が出ているか。坂道が少し楽になったか。片脚に乗ったときに不安がないか。股関節の奥が固まっていないか。自分の身体を観察することは、年齢を重ねてからの大切なセルフケアです。

“「年齢だから仕方ない」と決めつける必要はありません。ただし、無理に若い頃と同じ動きを目指す必要もありません。今の股関節の状態を知り、今の身体に合った動かし方を選ぶことが、将来の歩行能力を守ることにつながります。”

- 高平教授 -

股関節は、身体の奥にある小さな関節ではありません。立つこと、歩くこと、走ること、姿勢を保つこと。そのすべてを支える、身体の根っこのような存在です。

その根っこに目を向けたとき、大人の歩き方・走り方は、もう一度変わり始めます。

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参考情報

本記事は、股関節に関する理解を深めるための一般的な情報です。痛みが続く場合、歩行に支障がある場合、急な痛みや強い痛みがある場合は、自己判断で運動を続けず、整形外科などの医療機関にご相談ください。

股関節くん

股関節くんです。股関節やらせてもろてます。

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