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北里大学

高平尚伸

教授

監修

みんなの股関節ストーリー

2026.10.5

【前編】その痛み、股関節からのサインかもしれません 高橋勝成プロと高平尚伸教授が語る「痛めない身体の使い方」 

この記事でわかること

・股関節の痛みや違和感を、単なる年齢のせいで片づけない方がよい理由

・変形性股関節症、寛骨臼形成不全、FAI症候群、腰椎由来の関連痛など、股関節まわりの症状で考えたい代表的な視点

・股関節が歩行、姿勢、腰痛・膝痛、身体の使い方に関わる理由

・トッププロの身体感覚から学べる、痛めない動き方のヒント

・自己判断で我慢し続けず、整形外科などに相談した方がよいサイン

高平尚伸教授
北里大学大学院 医療系研究科 整形外科学/スポーツ医学、北里大学医療衛生学部 リハビリテーション学科 スポーツ・運動器理学療法学教授、北里大学大学院 医療系研究科 医学専攻主任。専門は股関節外科学。変形性股関節症の病態と治療の研究が専門で、最小侵襲手術(MIS)を手がけるなど、この分野のオーソリティとして活躍。リハビリテーション学にも精通し、股関節痛におけるセルフケアの重要性を啓蒙しながら、患者さん自身が簡単にできる運動療法の指導も治療に積極的に取り入れている。

高橋勝成プロ
プロゴルファー。日本男子ツアー、シニア競技の第一線で長く活躍してきた経験をもとに、年齢を重ねても身体と向き合いながらプレーを続ける重要性を伝えている。股関節メディアでは、競技者の実感を通じて「痛めない身体の使い方」を読者に届ける語り手として登場。

前編|痛みは、身体からの大切なメッセージ

「まだ歩けるから大丈夫」と思っていませんか

立ち上がるときに鼡径部(脚の付け根)がつまる。長く歩くと股関節まわり、太ももの前側、お尻、膝のどこかが重くなる。階段を上るときに、片側だけ力が入りにくい。腰や膝の痛みだと思っていたけれど、どうも身体の奥の方に違和感がある。そうした小さな変化を感じながらも、「年齢のせい」「運動不足だから」「少し休めば治る」と考えて過ごしている方は少なくありません。

股関節の不調は、最初から強い痛みとして現れるとは限りません。歩幅が狭くなる、靴下を履きにくくなる、足の爪を切りにくくなる、外出後に疲れが残る、片脚に体重を乗せにくい。こうしたADL(日常生活動作)の変化として表れることもあります。本人にとっては些細なことでも、股関節の可動域、筋力、荷重時痛、あるいは腰椎や膝との関係を見直す手がかりになる場合があります。

今回の対談では、長年ゴルフの第一線で身体を使い続けてきた高橋勝成プロと、股関節外科・運動器リハビリテーションを専門とする高平尚伸教授が、痛みと身体の使い方について語り合いました。ゴルフは一見、特別なスポーツの話に見えるかもしれません。しかし、そこで語られる「立つ」「歩く」「体重を乗せる」「身体を回す」という動きは、日常生活そのものと深くつながっています。

高橋プロの言葉から伝わってくるのは、身体を力で押し切るのではなく、その日の状態を感じながら使うという姿勢です。プロであっても、年齢や疲労、コンディションの変化から自由ではありません。だからこそ、身体の声を聞き、無理を重ねず、今の自分に合う動きを探していく。その考え方は、股関節に不安を抱える一般の方にとっても大切なヒントになります。

一方で、高平先生の視点は、痛みを単なる我慢や根性の問題にしません。変形性股関節症(股関節OA)、寛骨臼形成不全を背景とした股関節症、FAI症候群、腱や滑液包の問題、腰椎由来の関連痛など、股関節まわりの症状には複数の可能性があります。どの関節が動きにくいのか。どの部位が代わりに頑張っているのか。日常動作の中で、どこに負担が集まっているのか。そうした見方を持つことで、痛みは怖いものから、身体を見直すための情報へと変わっていきます。

股関節は、身体の中心で生活を支えている

股関節は、身体のかなり深い場所にある関節です。そのため、肩や膝のように自分で見たり触ったりしにくく、意識しにくい部位でもあります。しかし実際には、立つ、歩く、座る、立ち上がる、階段を上る、方向を変えるといった日常動作の多くに関わっています。

股関節の可動域や筋力、荷重の受け止め方が変わると、身体は別の場所で補おうとします。腰を反らせる、膝を内側に入れる、足先だけで向きを変える、上半身を傾ける。こうした代償動作が続くと、痛みの出ている場所が股関節ではなく腰や膝に見えることもあります。つまり、「腰が痛い」「膝が痛い」と感じている方の中にも、股関節の動きや荷重の仕方が関係しているケースがあります。

もちろん、すべての腰痛や膝痛の原因が股関節にあるわけではありません。ここを断定してしまうと、かえって危険です。大切なのは、痛む場所だけを見るのではなく、身体全体のつながりとして考えることです。高平先生のような専門家の視点が必要になるのは、まさにこの部分です。

高橋プロが語る身体感覚も、この視点と重なります。よい動きとは、ある一部だけを強く使うことではありません。足で支え、股関節で受け止め、体幹で安定し、上半身が自然に動く。こうした連動があると、身体への負担は一か所に集中しにくくなります。これはゴルフに限らず、日常の歩き方や立ち方にも通じる考え方です。

股関節メディアでこの対談を届ける意味は、スポーツの上達法を紹介することだけではありません。トッププロの経験を入口にしながら、読者が自分の身体をもう一度見直すきっかけをつくることです。痛みを抱える方にとって必要なのは、不安を大きくする情報ではなく、次に何を確認すればよいかが見える情報です。

痛みを抱える人ほど、自己流で頑張る前に確認したいこと

身体に不安があると、多くの人はインターネットや動画で解決策を探します。股関節ストレッチ、筋トレ、歩き方改善、姿勢改善。役立つ情報も多くありますが、痛みがある状態で自己流に試し続けることには注意が必要です。

同じ「股関節が痛い」という言葉でも、背景は人によって異なります。関節軟骨や骨の変化、寛骨臼形成不全、FAI症候群、筋・腱・滑液包の問題、腰椎からくる症状、膝や足部との関係、過去のけが、生活習慣。原因や状態が異なれば、合う運動も変わります。よいとされる運動でも、今の身体に合っていなければ痛みを強める可能性があります。

だからこそ、痛みを抱える方にまず伝えたいのは、頑張る方向を間違えないことです。無理に可動域を広げる、痛みを我慢して反復する、強い刺激でほぐし続ける。こうした方法が必ず悪いわけではありませんが、症状が続く場合には専門家の評価を受けた方が安全です。

高橋プロのような一流選手ほど、身体の変化に敏感です。違和感を無視して動くのではなく、なぜその違和感が起きるのかを考える。ここに、痛みを抱える一般読者が学べる大きなポイントがあります。身体を大切にすることは、弱さではありません。長く動き続けるための知恵です。


主な参照情報

  • 日本整形外科学会(JOA) 変形性股関節症診療ガイドライン 2024 第3版/Journal of Orthopaedic Science secondary publication

  • American Academy of Orthopaedic Surgeons(AAOS)Management of Osteoarthritis of the Hip Clinical Practice Guideline(2023/2024 update)

  • NICE Guideline NG226: Osteoarthritis in over 16s: diagnosis and management(2022)

  • 2019 American College of Rheumatology/Arthritis Foundation Guideline for the Management of Osteoarthritis of the Hand, Hip, and Knee

  • OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticular osteoarthritis(2019)

  • NHS: Hip pain in adults(最終確認 2025年11月版)

  • The Warwick Agreement on femoroacetabular impingement syndrome(FAI syndrome)

  • Life Course Epidemiology of Hip Osteoarthritis in Japan(2024)

  • 北里大学医療衛生学部 高平尚伸教授プロフィール

  • 一般社団法人 日本股関節学会 第53回日本股関節学会 学術集会案内

  • 日本ゴルフツアー機構(JGTO) 髙橋勝成選手プロフィール

  • 高橋勝成プロ×高平尚伸教授 対談録画(2026年6月26日)および同内容整理スライド

股関節くん

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