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北里大学

高平尚伸

教授

監修

みんなの股関節ストーリー

2026.10.15

【後編】その痛み、股関節からのサインかもしれません 高橋勝成プロと高平尚伸教授が語る「痛めない身体の使い方」 

この記事でわかること

・股関節の痛みや違和感を、単なる年齢のせいで片づけない方がよい理由

・変形性股関節症、寛骨臼形成不全、FAI症候群、腰椎由来の関連痛など、股関節まわりの症状で考えたい代表的な視点

・股関節が歩行、姿勢、腰痛・膝痛、身体の使い方に関わる理由

・トッププロの身体感覚から学べる、痛めない動き方のヒント

・自己判断で我慢し続けず、整形外科などに相談した方がよいサイン

高平尚伸教授
北里大学大学院 医療系研究科 整形外科学/スポーツ医学、北里大学医療衛生学部 リハビリテーション学科 スポーツ・運動器理学療法学教授、北里大学大学院 医療系研究科 医学専攻主任。専門は股関節外科学。変形性股関節症の病態と治療の研究が専門で、最小侵襲手術(MIS)を手がけるなど、この分野のオーソリティとして活躍。リハビリテーション学にも精通し、股関節痛におけるセルフケアの重要性を啓蒙しながら、患者さん自身が簡単にできる運動療法の指導も治療に積極的に取り入れている。

高橋勝成プロ
プロゴルファー。日本男子ツアー、シニア競技の第一線で長く活躍してきた経験をもとに、年齢を重ねても身体と向き合いながらプレーを続ける重要性を伝えている。股関節メディアでは、競技者の実感を通じて「痛めない身体の使い方」を読者に届ける語り手として登場。

後編|痛めない身体の使い方は、生活を変える

歩くことは、股関節にとって最も身近な運動

股関節の不調を考えるとき、特別なトレーニングや難しい運動を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、多くの人にとって最も身近で重要な動作は「歩くこと」です。歩くことは、股関節に体重を乗せ、脚を後ろへ送り、骨盤と体幹を協調させる、非常に基本的でありながら奥深い運動です。

歩くときに痛みがあると、人は自然に痛みを避けようとします。歩幅を小さくする、片側に体重を乗せない、身体を左右に揺らす、つま先の向きを変える。こうした工夫は一時的には必要なこともありますが、長く続くと別の部位に負担が移ってしまうことがあります。

高平先生の専門領域である運動器リハビリテーションでは、痛みのある部位だけでなく、どのように立ち、どのように歩き、どのように身体を支えているかを見ていきます。股関節の可動域、筋力、疼痛の出方、左右差、骨盤の動き、膝や足関節との関係。そうした要素を総合的に確認することで、その人に合った保存療法や運動療法の糸口が見えやすくなります。

高橋プロの経験が示すのも、身体を部分で考えすぎないことの大切さです。ゴルフのスイングでは、足、股関節、体幹、腕がつながって動きます。日常生活でも同じです。椅子から立ち上がるとき、階段を上るとき、荷物を持って歩くとき、身体は一つの連動として働いています。

痛みを改善したいとき、つい痛い場所だけに意識が向きます。しかし、本当に見直したいのは、身体全体の使い方です。股関節を中心にして、立つ、歩く、支える、向きを変える。この基本動作を個々の状態に合わせて整えることは、日常の疲れ方や外出への不安を軽減する一助になる可能性があります。

読者が今日から確認したい五つのサイン

・靴下を履く、足の爪を切る、床の物を拾う動作が以前よりつらくなっていないか。

・歩幅が小さくなった、片側だけ足が出しにくい、長く歩くと鼡径部(脚の付け根)や太もも、膝が重くならないか。

・階段、坂道、立ち上がりで、股関節・腰・膝のどこかにいつも同じ違和感が出ないか。

・痛みを避けるために、外出、運動、趣味、人と会う機会が減っていないか。

・痛みが一時的ではなく、数週間以上続く、強くなる、睡眠や日常生活に影響していないか。

運動は大切。ただし「今の自分に合うこと」が前提

股関節の健康を守るうえで、身体を動かすことは大切です。変形性股関節症を含む変形性関節症の診療ガイドラインでは、患者教育、運動療法、体重管理、セルフマネジメントが保存療法の重要な柱として扱われています。歩く、軽く体操する、筋力を保つ、柔軟性を維持する。こうした習慣は、将来の生活機能を守るうえでも重要です。ただし、痛みがある方にとっては「何をするか」以上に、「今の自分に合っているか」が大切になります。

たとえば、股関節を大きく開くストレッチが合う人もいれば、かえって違和感が強くなる人もいます。筋トレが必要な人もいれば、まずは痛みを増やさない範囲で歩行や立ち方を整えた方がよい人もいます。動画や記事の内容が一般論として正しくても、自分の状態にそのまま当てはまるとは限りません。

この点で、高平先生の医学的な視点と高橋プロの身体感覚は補い合います。医学は安全性や状態の見極めを支え、プロの経験は、身体を無理なく使う感覚を伝えてくれます。読者にとって重要なのは、どちらか一方ではなく、両方の視点を持つことです。

痛みを抱える人ほど、「早く治したい」「元に戻りたい」という気持ちが強くなります。その気持ちは自然なものです。ただ、焦って強い運動を重ねるより、まずは痛みの出方を把握し、必要に応じて医師や理学療法士に相談し、自分に合う範囲で少しずつ進める方が、結果的に遠回りになりにくい場合があります。痛みをゼロにすることだけを目標にせず、歩ける距離、立ち上がりやすさ、外出しやすさといった生活機能も一緒に見ていくことが重要です。

受診の目安:我慢し続けないために

股関節や鼡径部(脚の付け根)の痛み、腰や膝の痛みが続く場合、自己判断で長く我慢しないことが大切です。特に、歩くと痛い、痛みで外出を控えるようになった、痛みが悪化する・繰り返す、自宅での対処を続けても改善しない、朝のこわばりが長く続く、急に可動域が狭くなった、左右差が強くなったといった場合は、整形外科などの医療機関に相談してください。

一方で、転倒やけがの後に強い股関節痛がある、脚に体重をかけられない、急に歩けない、発熱や全身のだるさを伴い股関節が熱っぽい・腫れている、外傷後にしびれや感覚低下がある、といった場合は、早めの受診ではなく、救急を含めた緊急評価が必要になることがあります。こうした症状は、骨折、感染、神経障害などを除外する必要があるためです。

また、痛みが強くなくても、日常生活の選択肢が狭くなっている場合は注意が必要です。買い物に行く距離を短くする、階段を避ける、旅行や趣味を諦める、家族や友人との外出を断る。こうした変化は、身体の問題が生活の質に影響し始めているサインかもしれません。

医療機関に相談することは、すぐに手術を意味するわけではありません。状態を確認し、保存療法、リハビリテーション、生活上の工夫、運動の仕方、必要に応じた画像検査や薬物療法などを検討するための入口です。不安なまま自己流で続けるよりも、専門家と一緒に現在地を確認することが、安心につながる場合があります。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療方針を示すものではありません。症状が続く場合や不安がある場合は、医師、理学療法士などの専門家にご相談ください。

股関節を守ることは、未来の行動範囲を守ること

股関節の痛みは、単に身体の一部が痛むという問題にとどまりません。歩く距離が短くなる。外出が減る。好きな趣味から遠ざかる。人と会う機会が減る。そうした変化が積み重なると、生活全体の活力に影響することがあります。

だからこそ、股関節メディアが届けるべき情報は、恐怖を煽るものではなく、読者が自分の身体を理解し、必要な行動を選べるようにする情報であるべきです。痛みがあるから終わりではありません。痛みに気づいた今だからこそ、身体の使い方、相談先、生活の整え方を見直すことができます。

高橋勝成プロと高平尚伸教授の対談は、スポーツと医学の接点から、股関節を生活の中心として捉え直すきっかけを与えてくれます。トッププロの身体感覚は、特別な人だけのものではありません。自分の症状の出方を観察する、無理に押し切らない、必要なときは評価を受ける、長く動き続けるために整える。その姿勢は、痛みを抱えるすべての人に通じるものです。

股関節を守ることは、これから先の歩く力を守ることです。歩く力を守ることは、外出、仕事、家事、趣味、人とのつながりを守ることでもあります。痛みを我慢するだけの日々から、自分の身体を理解し、少しずつ選択肢を取り戻す日々へ。その一歩を、今日から始めていきましょう。

股関節の不調は、誰にでも起こり得ます。しかし、気づき方、向き合い方、相談のタイミングによって、その後の生活は変わります。大切なのは、痛みを敵として責めることではなく、身体からのメッセージとして受け取り、必要な支援につなげることです。

主な参照情報

  • 日本整形外科学会(JOA) 変形性股関節症診療ガイドライン 2024 第3版/Journal of Orthopaedic Science secondary publication

  • American Academy of Orthopaedic Surgeons(AAOS)Management of Osteoarthritis of the Hip Clinical Practice Guideline(2023/2024 update)

  • NICE Guideline NG226: Osteoarthritis in over 16s: diagnosis and management(2022)

  • 2019 American College of Rheumatology/Arthritis Foundation Guideline for the Management of Osteoarthritis of the Hand, Hip, and Knee

  • OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticular osteoarthritis(2019)

  • NHS: Hip pain in adults(最終確認 2025年11月版)

  • The Warwick Agreement on femoroacetabular impingement syndrome(FAI syndrome)

  • Life Course Epidemiology of Hip Osteoarthritis in Japan(2024)

  • 北里大学医療衛生学部 高平尚伸教授プロフィール

  • 一般社団法人 日本股関節学会 第53回日本股関節学会 学術集会案内

  • 日本ゴルフツアー機構(JGTO) 髙橋勝成選手プロフィール

  • 高橋勝成プロ×高平尚伸教授 対談録画(2026年6月26日)および同内容整理スライド

股関節くん

股関節くんです。股関節やらせてもろてます。

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