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北里大学

高平尚伸

教授

監修

高平教授直伝!基礎知識

2026.9.24

股関節が痛いのはなぜ? 脚の付け根に出る痛みの原因を専門家がわかりやすく解説

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断や治療方針の決定は、必ず医師の診察を前提にしてください。強い痛み、歩行困難、発熱、外傷後の痛みなどがある場合は、早めに医療機関へ相談してください。

導入:股関節の痛みは、軽く見られやすい

「歩き始めに脚の付け根が痛む」「椅子から立ち上がる瞬間にズキッとする」「しばらく歩くと股関節まわりが重だるい」。こうした訴えは、股関節外来やリハビリテーションの現場で非常によく聞かれます。

痛みが強くない時期には、多くの方が「年齢のせい」「少し歩きすぎた」「ストレッチをすればよくなる」と考えがちです。しかし、脚の付け根、医学的には鼡径部に出る痛みは、股関節そのものからのサインであることがあります。

もちろん、鼡径部が痛いからといって、すべてが変形性股関節症というわけではありません。腰椎、骨盤周囲、筋肉や腱、関節唇、あるいは内科・泌尿器科・婦人科領域の疾患が関係することもあります。だからこそ、痛む場所だけで判断せず、どの動作で痛むのか、どのくらい続いているのか、生活にどの程度支障が出ているのかを丁寧に見ていく必要があります。

股関節は、身体を支える大きな荷重関節

股関節は、骨盤の寛骨臼と大腿骨頭から構成される球関節です。肩関節と同じように多方向へ動く一方で、立つ、歩く、階段を上る、椅子から立ち上がるといった動作では、体重を受け止める荷重関節として働きます。

日常生活の中で股関節は目立ちにくい関節です。膝や足首のように外から形が見えやすいわけではなく、痛みの位置も本人には曖昧に感じられることがあります。そのため、股関節に由来する痛みが、腰痛や膝痛として受け止められている場合も少なくありません。

股関節に問題が生じると、痛みだけでなく、歩幅の減少、跛行、階段昇降の困難、靴下や爪切りのしづらさなど、生活機能に影響が出ます。日本整形外科学会も、変形性股関節症の主な症状として関節痛と機能障害を挙げています。つまり股関節痛は、単なる局所の痛みではなく、その人の移動能力や生活の質に直結する問題です。

なぜ脚の付け根に痛みが出るのか

股関節は身体の深部にあるため、痛みが「ここが関節です」と明確に表れるとは限りません。典型的には鼡径部痛として自覚されますが、太ももの前面、臀部、股関節外側、膝周囲に痛みが放散することもあります。

臨床では、膝の痛みを訴えて受診した方の背景に股関節の可動域制限が見つかることがあります。また、腰痛と思っていた症状の一部に、股関節の動きの悪さや歩き方の変化が関係していることもあります。

したがって、股関節を評価するときには、痛みの部位だけでなく、股関節の可動域、歩行、筋力、左右差、生活動作の変化を総合して確認します。特に、股関節を曲げる、開く、内側・外側へ回す動きで痛みや制限が出るかどうかは重要な情報になります。

立ち上がりや歩き始めの痛みは、見逃したくないサイン

変形性股関節症でよくみられる訴えの一つに、立ち上がりや歩き始めの痛みがあります。座っている状態から立つとき、股関節には上半身の重さを支えながら骨盤と大腿骨を協調させる力が求められます。歩き始めも同様に、最初の一歩で股関節は体重を受け止め、脚を前に運ぶ働きを担います。

関節軟骨の変性、炎症、関節包や周囲筋の硬さ、筋力低下などが重なると、この初動のタイミングで痛みや詰まり感が出やすくなります。少し動いているうちに楽になる方もいれば、歩くほど痛みが強くなる方もいます。この違いも、診療上は大切な情報です。

「歩けているから大丈夫」と考える方もいますが、初期には日常生活が完全にできなくなるわけではありません。むしろ、歩けるからこそ見過ごされます。以前より歩幅が狭くなった、階段で手すりを使うようになった、靴下を履く姿勢がつらくなった。こうした小さな変化を、早い段階で拾い上げることが大切です。

代表的な原因としての変形性股関節症

股関節痛の原因として代表的な疾患の一つが、変形性股関節症です。関節軟骨の変性や摩耗、関節裂隙の狭小化、骨棘形成などが進み、疼痛、可動域制限、跛行などを生じます。日本では、臼蓋形成不全など発育期からの股関節形態が背景となる例も多くみられます。

一方で、年齢、体重、活動量、職業上の負荷、筋力低下、歩行の癖など、複数の要素が絡み合って症状が出ることもあります。画像所見が強くても痛みが少ない方もいれば、画像上の変化が軽度でも生活上の困りごとが大きい方もいます。

したがって、診断名だけで治療方針が決まるわけではありません。痛みの程度、可動域、筋力、歩行、画像所見、生活環境、本人が何を続けたいかを総合的に見て、保存療法、薬物療法、リハビリテーション、手術療法などを検討します。

痛いときに、まず避けたいこと

股関節に痛みがあるとき、自己判断で強いストレッチを行う方がいます。柔軟性は大切ですが、痛みを我慢して開脚する、反動をつけて伸ばす、動画で見た運動をそのまま長時間行うといった方法は、かえって症状を悪化させることがあります。

股関節は、柔らかければよい関節ではありません。荷重に耐える安定性、骨盤や体幹との連動、膝や足首との協調が必要です。痛みがある段階では、どの方向へ、どの程度、どの負荷で動かすべきかを見極める必要があります。

運動療法は、変形性関節症に対する重要な保存療法の一つです。ただし、それは「痛みを無視して頑張る」という意味ではありません。痛みの反応を見ながら、関節に過度な負担をかけず、可動域、筋力、歩行機能を段階的に整えていくことが基本です。

受診を考えるべき症状

股関節痛のすべてが緊急を要するわけではありません。しかし、次のような場合は、整形外科で評価を受けることを勧めます。痛みが数週間以上続く、歩くたびに痛む、痛みが徐々に強くなっている、夜間痛がある、靴下や爪切りなどの日常動作が難しい、階段や車の乗り降りがつらい、転倒後に強い痛みがある、脚に体重をかけられない、発熱や腫れを伴う。このような症状は、自己流のセルフケアだけで済ませない方がよい状態です。

医療機関を受診することは、すぐに手術を意味するものではありません。現在の状態を知り、保存療法で対応できる段階なのか、リハビリテーションを行うべきなのか、画像検査が必要なのか、専門的な治療を検討すべきなのかを整理するための入口です。

まとめ:股関節の痛みを、身体からの情報として受け取る

股関節の痛みは、単なる疲れや加齢だけで説明できないことがあります。特に鼡径部痛、立ち上がりや歩き始めの痛み、靴下や爪切りのしづらさ、歩幅の変化などは、股関節の機能を見直すサインになります。

重要なのは、必要以上に怖がることではありません。一方で、軽く見すぎないことです。自分の症状を整理し、必要なときには専門家につながり、状態に応じて適切に動かす。これが、股関節と長く付き合ううえでの基本になります。

股関節は、歩く、立つ、動く、出かけるという生活の土台です。痛みがあるときこそ、早い段階で状態を知り、将来の歩行能力と生活の質を守る視点を持っていただきたいと思います。

参考文献・根拠資料

本文中では一般読者向けの読みやすさを優先し、引用表記は最小限にしています。公開時には必要に応じて、媒体方針に合わせて参考文献欄または監修注として整理してください。

  • 日本整形外科学会『変形性股関節症』症状・病気をしらべる。

  • 日本整形外科学会/日本股関節学会監修『変形性股関節症診療ガイドライン2024 改訂第3版』南江堂。

  • NICE Guideline NG226, Osteoarthritis in over 16s: diagnosis and management, 2022.

  • American Academy of Orthopaedic Surgeons, Clinical Practice Guideline for the Management of Osteoarthritis of the Hip, updated 2024.

  • Kolasinski SL, et al. 2019 American College of Rheumatology/Arthritis Foundation Guideline for the Management of Osteoarthritis of the Hand, Hip, and Knee. Arthritis Rheumatol. 2020.

  • Metcalfe D, et al. Does This Patient Have Hip Osteoarthritis? JAMA. 2019.

  • Yoshizuka H, et al. Short-term changes in radiographic joint space width after jiggling exercise as conservative treatment for hip osteoarthritis. PLoS One. 2021.

高平教授

北里大学大学院 医療系研究科 整形外科学/スポーツ医学、北里大学医療衛生学部 リハビリテーション学科 スポーツ・運動器理学療法学教授、北里大学大学院 医療系研究科 医学専攻主任。専門は股関節外科学。変形性股関節症の病態と治療の研究が専門で、最小侵襲手術(MIS)を手がけるなど、この分野のオーソリティとして活躍。リハビリテーション学にも精通し、股関節痛におけるセルフケアの重要性を啓蒙しながら、患者さん自身が簡単にできる運動療法の指導も治療に積極的に取り入れている。

東京2020オリンピック選手対応ドクターも務めるほか、メディアでも積極的に情報発信している。著書に『股関節痛 こわばり・だるさ・脚長差 自力で克服!名医が教える最新1分体操大全』『どんなに硬い体も柔らかくなる!名医が教えるすごいストレッチ』(文響社)など、ベストセラー多数。

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