高平教授直伝!基礎知識
高平教授直伝 股関節セルフチェック 〜痛みの場所・動作・生活影響を整理し、受診時に伝えやすくする〜

股関節に痛みや違和感があるとき、いちばん困るのは「どう説明すればよいかわからない」ということかもしれません。
「足の付け根が痛い気がするけれど、腰も重い」「階段だけつらい」「靴下が履きにくい」「歩くと殿部の奥がだるい」。このような症状は、言葉にしようとすると意外に難しいものです。
しかし、診療では、この言葉にしにくい情報がとても大切です。画像検査も重要ですが、画像だけで生活の困りごとがすべてわかるわけではありません。どこが、いつ、どの動きで痛むのか。どの生活動作に困っているのか。この整理が、診察や治療方針を考える大切な入口になります。
「私は患者さんに、「相談できる形に整理することも、立派なケアです」とお伝えします。セルフチェックは、自分で診断するためのものではありません。医療者に正しく相談する準備です。」
1. セルフチェックの目的は「診断」ではなく「整理」

まず強調しておきたいのは、セルフチェックだけで病名を決めることはできないという点です。股関節の痛みには、変形性股関節症、寛骨臼形成不全、FAI、関節唇損傷、大腿骨頭壊死、筋肉や腱の障害、腰椎疾患など、さまざまな原因があります。
同じ鼡径部痛でも、原因は人によって違います。逆に、股関節が原因でも、殿部、大腿部、膝、腰に痛みや違和感が出ることがあります。だからこそ、セルフチェックでは「これは何の病気か」を決めるのではなく、「医師や理学療法士に何を伝えるか」を整理します。
JAMAの系統的レビュー「Does This Patient Have Hip Osteoarthritis?」では、股関節症を見極めるうえで、股関節や鼡径部の痛み、股関節の可動域、筋力、単純X線写真などを組み合わせて評価する重要性が整理されています。一般の方に必要なのは、検査方法を覚えることではありません。医療者は、症状、診察、画像を合わせて見ていると理解することです。
「セルフチェックは、医師の代わりに診断するためのものではありません。「自分の身体で何が起きているか」を言葉にするための準備です。ここを間違えなければ、インターネット情報に振り回されにくくなります。」
2. チェック1:痛む場所を整理する

最初に確認したいのは、痛む場所です。股関節に関係する痛みは、必ずしも股関節の真上に出るわけではありません。
まず、鼡径部、つまり足の付け根まわりです。股関節由来の痛みでよくみられる場所です。次に、殿部の奥です。患者さんは「腰の下」「お尻の奥」「骨盤の奥」と表現されることがあります。さらに、大腿部の前側や外側、膝の周囲、腰に広がる痛みとして感じることもあります。
ここで大切なのは、「一か所だけ」と決めつけないことです。痛む場所を複数書いてかまいません。痛みが移動する、日によって違う、朝と夕方で違うという情報も、診療では役に立ちます。
受診前メモには、次のように書いてみてください。
・主に痛む場所:鼡径部/殿部/大腿部/膝/腰/その他
・痛みの広がり:一か所に限局する/広がる/日によって変わる
・痛みの種類:鋭い/重い/だるい/引っかかる/抜ける感じ/こわばる
「痛みの表現に正解はありません。「ズキッ」「重い」「奥がだるい」「引っかかる感じ」など、ご自身の言葉で十分です。医学用語に置き換えるのは、私たち医療者の仕事です。」
3. チェック2:痛む動作を整理する

次に、どの動作で痛むかを見ます。股関節は、歩く、立つ、座る、階段を上る、方向転換する、脚を上げる、脚を開く、回旋するなど、日常の多くの動きに関わります。
たとえば、歩き始めだけ痛いのか、長く歩くと痛いのか。階段の上りで痛いのか、下りで痛いのか。坂道で痛いのか。椅子から立ち上がるときか、座るときか。靴下を履く姿勢、足の爪を切る姿勢、車の乗り降り、寝返り、長時間座位で痛むか。
これらは、単なる生活の困りごとのように見えますが、股関節の可動域、筋力、体重のかかり方、関節内の状態を推測する手がかりになります。
チェックするときに、痛みをわざと強く再現する必要はありません。特に、深く曲げる、強くひねる、開脚を無理に広げるといった動きは、痛みがある方では負担になることがあります。
「セルフチェックで大切なのは、痛みを試すことではなく、痛みが出る場面を思い出すことです。身体を追い込む必要はありません。日常で困っている動作を、静かに拾い上げてください。」
4. チェック3:生活への影響を見る

診療では、痛みの強さだけでなく、生活への影響を重視します。画像上の変化が大きくても生活に大きな支障がない方もいれば、画像では軽く見えても生活ではかなり困っている方もいます。
確認したいのは、歩ける距離や時間、買い物や通勤への影響、階段を避けているか、家事がつらいか、睡眠に影響しているか、趣味や旅行を控えるようになったか、家族に手伝ってもらう場面が増えたかです。
変形性股関節症診療ガイドライン2024では、診断、保存療法、手術療法などが体系的に整理されています。保存療法とは、手術以外の治療のことで、生活動作の工夫、運動療法、痛みの管理、歩行補助具、体重管理などが含まれます。保存療法を考えるうえでも、「生活で何に困っているか」は欠かせません。
たとえば、「痛みは少しだが、旅行に行くのが不安」という方と、「痛みは強いが、短距離なら問題なく歩ける」という方では、必要な支援が変わります。治療は、画像だけでなく、生活の目標と一緒に考えます。
「私は診察で、「何点の痛みですか」だけではなく、「何ができなくなりましたか」「何を続けたいですか」と伺います。痛みを減らすことは大切ですが、その先にある生活を取り戻すことが、治療の目的だからです。」
5. チェック4:時間の経過を整理する

痛みがいつから始まったのか、どのように変化しているのかも重要です。急に痛くなったのか、少しずつ増えてきたのか。転倒、尻もち、運動量の増加、旅行、長距離歩行、重い荷物、長時間座位など、きっかけがあるかを振り返ります。
痛みが出る時間帯も手がかりになります。朝だけこわばるのか、夕方に重くなるのか、歩くと悪化するのか、休むと軽くなるのか、夜間に痛みで目が覚めるのか。
また、痛み止めの薬、湿布、運動、入浴、休養で変化するかも記録しておくと役立ちます。医療者は、こうした経過から、股関節だけでなく、炎症、筋肉、腰椎、全身状態などの可能性も考えます。
「痛みは、その瞬間だけを切り取るより、時間の流れで見ると理解しやすくなります。「昨日よりどうか」「一か月前よりどうか」「歩く距離は変わったか」を見ると、次にすべきことが見えやすくなります。」
6. チェック5:早めに相談したいサイン

次のような場合は、セルフチェックだけで様子を見ず、早めに整形外科へ相談してください。
・転倒や尻もちの後から痛みが強い
・痛い側の脚に体重をかけられない
・数歩しか歩けない
・発熱、寒気、全身の強いだるさを伴う
・安静にしていても強い痛みが続く
・夜、痛みで目が覚める
・股関節まわりが急に腫れた、熱を持つ、赤くなっている感じがある
・歩ける距離が明らかに短くなっている
・靴下、爪切り、階段、立ち上がりなど、複数の日常動作に支障がある
これらは、骨折、感染、炎症の強い病気、大腿骨頭壊死など、早めの評価が必要な状態を見逃さないための目安です。もちろん、該当したから必ず重い病気ということではありません。重要なのは、我慢を続けすぎないことです。
「受診は、すぐ手術を決める場所ではありません。まず状態を確認し、「今できること」「避けた方がよいこと」「次に見るべき変化」を整理する場所です。不安があるときほど、早めに相談してください。」
7. そのまま使える受診前メモ

以下の項目をスマートフォンのメモや紙に書いておくと、受診時に伝えやすくなります。
項目 | メモする内容 |
|---|---|
痛む場所 | 鼡径部/殿部/大腿部/膝/腰/その他。左右どちらか、広がるか。 |
痛む動作 | 歩行、階段、坂道、立ち上がり、靴下、爪切り、車の乗り降り、寝返り、長時間座位など。 |
始まった時期 | いつから。急にか、少しずつか。転倒・尻もち・旅行・運動量増加などのきっかけ。 |
生活への影響 | 歩ける距離や時間、家事、仕事、睡眠、趣味、旅行、家族の手助けが必要か。 |
過去の診断 | 寛骨臼形成不全、変形性股関節症、FAI、関節唇損傷、大腿骨頭壊死、腰椎疾患など。 |
現在の対処 | 痛み止めの薬、湿布、運動、休養、杖、サポーターなど。効果の有無。 |
このメモは、きれいに書く必要はありません。箇条書きで十分です。診察室では緊張して、言いたかったことを忘れてしまう方もいます。メモがあれば、短い診察時間でも大切な情報を伝えやすくなります。
「「うまく説明できない」と感じる方ほど、メモが助けになります。医療者にとっても、患者さんの生活の言葉はとても大切な情報です。」
8. セルフチェック後にしてよいこと、避けたいこと

セルフチェックをしたあと、痛みが軽く、日常生活への支障が少ない場合は、痛みのない範囲で活動量を整えていきます。長時間同じ姿勢を避ける、急に歩く距離を増やさない、疲れたら休む、階段や坂道で無理をしない、といった工夫から始めてください。
一方で、痛みを我慢してストレッチを深める、開脚を無理に広げる、強くひねる、痛み止めの薬で押さえ込んで運動量を増やすことは避けてください。股関節の形や状態によっては、痛みを強めることがあります。
NICEの変形性関節症ガイドラインでは、情報提供と支援、必要に応じた体重管理、治療的運動が中核的な対応として挙げられています。ここでいう治療的運動は、「全員が同じ運動を同じ回数行う」という意味ではありません。その方の状態に合わせて、安全に継続する運動です。
「股関節ケアは、強さより安全性、回数より継続性です。今日できる小さな調整を続ける方が、身体は安心して変わっていきます。」
まとめ:セルフチェックは、未来の相談を助ける準備

股関節セルフチェックの目的は、自分で病名を決めることではありません。痛む場所、痛む動作、生活への影響、時間の経過を整理し、必要なときに医療へつながりやすくすることです。
「どこが痛いか」「どの動きで痛いか」「何に困っているか」。この3つが整理できるだけでも、受診時の相談は大きく変わります。
股関節は、歩く、立つ、座る、階段を上る、旅行に出かける、趣味を楽しむという日常を支える関節です。違和感を感じたときは、不安を検索し続けるより、まず自分の状態を整理してみてください。それが、股関節リテラシーの実践です。
専門用語ミニ辞典
鼡径部(そけいぶ):足の付け根まわりのことです。
殿部(でんぶ):お尻まわりの医学用語です。
大腿部(だいたいぶ):脚の付け根から膝までの部分です。
可動域:関節が動く範囲のことです。
内旋:股関節を内側へ回す動きです。
保存療法:手術以外の治療。生活動作の工夫、運動療法、痛みの管理などを含みます。
理学療法士:リハビリテーションの専門職です。身体の動き、筋力、柔軟性、歩き方、日常動作を評価し、改善を支援します。
参考文献・参考書籍
1. Metcalfe D, Perry DC, Claireaux HA, et al. Does This Patient Have Hip Osteoarthritis? The Rational Clinical Examination Systematic Review. JAMA. 2019;322(23):2323-2333.
2. 日本整形外科学会・日本股関節学会 編. 変形性股関節症診療ガイドライン2024 改訂第3版. 南江堂, 2024.
3. National Institute for Health and Care Excellence. Osteoarthritis in over 16s: diagnosis and management. NICE guideline NG226, 2022.
4. American Academy of Orthopaedic Surgeons. Osteoarthritis of the Hip. OrthoInfo.
5. Weir A, Brukner P, Delahunt E, et al. Doha agreement meeting on terminology and definitions in groin pain in athletes. British Journal of Sports Medicine. 2015;49:768-774.
6. 高平尚伸. 股関節痛 こわばり・だるさ・脚長差 自力で克服! 名医が教える最新1分体操大全. 文響社.
7. 高平尚伸 編. 体操療法オールブック. メジカルビュー社.
高平教授
北里大学大学院 医療系研究科 整形外科学/スポーツ医学、北里大学医療衛生学部 リハビリテーション学科 スポーツ・運動器理学療法学教授、北里大学大学院 医療系研究科 医学専攻主任。専門は股関節外科学。変形性股関節症の病態と治療の研究が専門で、最小侵襲手術(MIS)を手がけるなど、この分野のオーソリティとして活躍。リハビリテーション学にも精通し、股関節痛におけるセルフケアの重要性を啓蒙しながら、患者さん自身が簡単にできる運動療法の指導も治療に積極的に取り入れている。
東京2020オリンピック選手対応ドクターも務めるほか、メディアでも積極的に情報発信している。著書に『股関節痛 こわばり・だるさ・脚長差 自力で克服!名医が教える最新1分体操大全』『どんなに硬い体も柔らかくなる!名医が教えるすごいストレッチ』(文響社)など、ベストセラー多数。
