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北里大学

高平尚伸

教授

監修

みんなの股関節ストーリー

2026.10.29

股関節のミカタ|医師対談 後編

【後編】骨を守るだけでは足りない――筋力・バランス・股関節、そして「続けたくなる運動」へ

前編では、がんと運動、有酸素運動、そして歩行を支える股関節について語った高平尚伸教授と秋月玲子医師。後編のテーマは骨粗しょう症です。骨折を防ぐために本当に必要なのは、骨だけを強くすることなのか。話は筋力、バランス、姿勢、運動継続へ広がり、最後は秋月先生の趣味であるゴルフへ。

高平尚伸教授
北里大学教授(医療衛生)。股関節外科、運動器リハビリテーション、スポーツ整形外科を専門とし、股関節の治療だけでなく、保存療法や予防、身体の使い方にも取り組む。

秋月玲子医師
2002年、慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学外科学教室で外科医として勤務後、2005年に厚生労働省へ医系技官として入省。国際保健、診療報酬、がん対策などに従事し、2008年から米ハーバード公衆衛生大学院に留学、2010年に公衆衛生学修士(MS)を取得。国のがん対策推進基本計画の策定にも携わり、静岡県立静岡がんセンター医監、AMEDロンドン事務所長などを歴任。2019年から米系製薬企業で勤務。臨床・行政・国際的な研究支援・製薬企業と、複数の立場から医療に携わってきた。

骨粗しょう症は「骨だけ」を見ていてはいけない

編集部:秋月先生は現在、骨粗しょう症の領域にも関わっています。骨粗しょう症というと、まず骨を強くする治療を思い浮かべます。

秋月医師:骨折リスクが高い方などでは、病態に応じた薬による治療はもちろん非常に重要です。ただ、骨折を防ぐという視点では、骨だけを見ればいいわけではありません。転ばないための筋力やバランスも必要です。そこは、薬とは別に考えなければいけない部分です。

高平教授:その通りです。ロコモティブシンドロームの予防でも、スクワットや片脚立ちは基本的な運動です。日常生活を考えても、「立ち上がる」「歩く」「座る」ができなければ自立した生活は難しくなります。立ち上がりはスクワットに近い動きですし、歩行では必ず一瞬、片脚で身体を支えます。

高平教授:骨の健康では荷重運動や筋力トレーニングが大切ですし、転倒を防ぐにはバランス能力も欠かせません[3]。骨を守ることと、動ける身体を守ることは切り離せないんです。

編集部:骨を強くすることと同時に、「転びにくい身体」をつくる視点も必要だということですね。

高平教授:そうです。骨の状態だけでなく、立ち直る力や一歩を出せる力まで含めて考える。そこで股関節まわりの筋力や動きが、日常生活の土台になります。

秋月医師:でも筋トレって、「大切なのは分かっているけれど続かない」代表格ですよね。骨折しなかったという結果は何年も先にならないと分かりません。だから、途中で自分の変化を感じられることがすごく大切だと思います。

「姿勢がよくなった」は、立派な変化。無意識の動きに身体の実力が出る

秋月医師:私自身、パーソナルトレーニングを続けていて、以前より姿勢がよくなったと言われることがあります。意識して胸を張っている時ではなく、気が抜けている時にも姿勢が整っていると言われると、「やってきた甲斐があった」と思えるんです。

高平教授:そこはとても大事です。意識している時だけできるのではなく、普段の何気ない動作が変わる。そこまでいくと身体の使い方が身についてきたと言えます。姿勢がよくなった、疲れにくくなった、階段が楽になった。そうした変化も、運動を続ける立派な理由になります。

編集部:数値だけではなく、日常の動きそのものを評価するということですね。

高平教授:そうです。パソコンに向かっている時の姿勢、椅子から立つ時、床の物を拾う時。日常には、その人の身体の状態が出る場面がたくさんあります。痛みが出てから治療するだけではなく、その前の段階で身体の使い方を知ることに価値があります。

運動を「苦行」にしない。楽しさが継続をつくる

編集部:正しい運動を知っても、やはり続けることが次の壁になります。

高平教授:続けるためには、楽しさが必要だと思います。音楽に合わせる、誰かと一緒にやる、道具を使う。健康のためだからといって、運動を苦行にしてしまうと長続きしません。

編集部:対談では、横方向への揺れを使って股関節周囲を動かすTakahiraボードの話も出ました。

高平教授:日常生活では前後方向の動きが多く、横方向に股関節を使う機会は意外と少ないんです。だから、揺れながら身体を動かすことをきっかけに、普段使っていない方向の動きを意識してもらう。何より「やらされる運動」ではなく、自然に身体を動かしたくなることが大切です。

編集部:なお、Takahiraボードによる個別の健康効果については、現在も検証が必要な領域です。治療効果を断定するものではなく、体調や疾患のある方は専門家に相談しながら行うことが前提です。

健康のための運動が、趣味のゴルフにつながる

編集部:対談の最後は、秋月先生の趣味であるゴルフの話になりました。秋月先生はいま、飛距離アップにも取り組んでいるそうですね。

秋月医師:私はいま、飛距離を伸ばしたくてトレーニングしています。ゴルフを始めてから、身体の使い方をこんなに考えるようになるとは思いませんでした。単に「筋トレをしましょう」と言われると続かなくても、「この運動が飛距離につながる」と思うと急にやる気が出るんです。

秋月医師:ゴルフでは「腕の力を抜いて」とよく言われます。でも、腕の力を抜いたら、次に「では、どこで打つのか」という疑問が出てきます。下半身を使おうとすると、筋力だけではなく柔軟性やバランス、下半身から上半身への連動が必要になる。そう考えていくと、股関節がとても重要だということが分かってきました。医師であっても、股関節が重要だという知識と、実際に自分の身体で使うことはまったく別ですね。

高平教授:ゴルフのような回旋動作では、腰だけを無理に回そうとするのではなく、股関節や胸郭など、動くべき関節がそれぞれ役割を担うことが大切です。股関節と体幹の協調がクラブヘッドスピードと関連するという研究もあります[4]。

秋月医師:飛距離は数字で見えるので面白いんです。今まで越えなかった場所までボールが届くと、身体の変化が実感できます。筋トレのための筋トレではなく、「ゴルフが上手くなるため」と思える。私にとっては、それが運動を続ける大きな動機になっています。

編集部:「健康のために運動しましょう」だけでは動かなかった人も、「もっと遠くまで歩きたい」「姿勢をきれいにしたい」「ゴルフでもう少し飛ばしたい」という目的があれば、身体を動かし始めるかもしれません。がん、骨粗しょう症、歩行、そしてゴルフ。一見別々のテーマをつないでいたのは、股関節を中心に「自分の身体をどう使うかを知る」という視点でした。

編集部:股関節は、痛くなって初めて意識する関節ではありません。元気に歩き、立ち、好きなことを長く続けるために、もっと早い段階から知っておきたい関節なのかもしれません。

※痛みが強い方、骨粗しょう症や骨折歴がある方、がん治療中・治療後の方は、運動内容や強度について主治医・専門職に相談してください。

参考文献・関連資料

[3]International Osteoporosis Foundation. Exercise.(荷重運動、筋力、バランス運動に関する一般向け情報)

[4]Inter-joint coordination between hips and trunk during downswings: Effects on the clubhead speed. PubMed PMID: 26911704.

編集注:対談の趣旨を損なわない範囲で発言を整理・再構成し、医学的な数値・研究内容は既存原稿で確認済みの公開文献に基づいています。

股関節くん

股関節くんです。股関節やらせてもろてます。

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