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北里大学

高平尚伸

教授

監修

みんなの股関節ストーリー

2026.10.20

股関節のミカタ|医師対談 前編

【前編】がんと有酸素運動から見えてきた「股関節」の価値――高平尚伸教授×秋月玲子医師 対談

「運動が身体にいい」ことは、多くの人が知っています。それでも、いざ毎日の生活に落とし込むとなると難しい。がん対策に長く携わってきた秋月玲子医師と、股関節の専門家である高平尚伸教授が、がんと運動の話から、歩行、姿勢、そして“動ける身体”の土台である股関節について語り合いました。

高平尚伸教授
北里大学教授(医療衛生)。股関節外科、運動器リハビリテーション、スポーツ整形外科を専門とし、股関節の治療だけでなく、保存療法や予防、身体の使い方にも取り組む。

秋月玲子医師
2002年、慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学外科学教室で外科医として勤務後、2005年に厚生労働省へ医系技官として入省。国際保健、診療報酬、がん対策などに従事し、2008年から米ハーバード公衆衛生大学院に留学、2010年に公衆衛生学修士(MS)を取得。国のがん対策推進基本計画の策定にも携わり、静岡県立静岡がんセンター医監、AMEDロンドン事務所長などを歴任。2019年から米系製薬企業で勤務。臨床・行政・国際的な研究支援・製薬企業と、複数の立場から医療に携わってきた。

「がん予防」だけでなく、がんになった後の運動にも注目が集まっている

編集部:秋月先生は厚生労働省で、長くがん対策に関わってこられました。まず、最近注目されている「がんと運動」の関係から教えてください。

秋月医師:私は医学部卒業後、消化器外科を経験し、その後、厚生労働省に入りました。なかでも長く関わったのが、がん対策です。静岡県立静岡がんセンターにも勤務し、予防から治療、緩和ケアまで幅広く見てきました。身体活動が一部のがんの予防と関連することは以前から知られていましたが、最近は「がんになった後」の運動にも注目が集まっています。

秋月医師:2025年に『New England Journal of Medicine』で報告されたCHALLENGE試験では、手術と術後化学療法を終えた高リスク・ステージIIまたはステージIIIの大腸がん患者889人を対象に、3年間の構造化された運動プログラムを行った群と、健康情報の提供を受けた群が比較されました。運動群では5年無病生存率が80.3%、対照群では73.9%でした[1]。もちろん、これを「運動をすればがんが治る」と単純化してはいけません。ただ、治療後の生活においても運動が重要なテーマになっていることを示す、非常に印象的な研究だと思います。

編集部:運動がなぜがんと関係するのか、という点も気になります。

秋月医師:そこは一つの仕組みだけで説明できるものではありません。運動によるインスリンやインスリン様成長因子、炎症、免疫機能などの変化が、がんの発生や進展と関係するのではないかと研究されています[2]。大事なのは、運動の価値を過度に単純化せず、今わかっていることと、まだ研究途上のことを分けて考えることだと思います。

知っていても、続けられない。健康づくりの難しさはそこにある

編集部:一方で、運動が大切だと分かっていても続かない、という人は少なくありません。

秋月医師:まさにそこが難しいところです。運動がいい、食生活が大切だということは何十年も前から言われています。でも「では、どうやって毎日やるのか」というところは、今も簡単には解決できていません。人によって意識も生活も違いますし、正しいことを伝えるだけでは行動は変わらないんですよね。

編集部:有酸素運動というと、日常で一番取り入れやすいのは歩くことです。

秋月医師:そう思います。歩行は特別な道具がなくてもできますし、ほとんどの人が毎日行っています。ただ、私自身もそうですが、「正しく歩けているか」と聞かれると自信がありません。私はパーソナルトレーニングで、膝が内側に入りやすいと何度も指摘されています。何十年も身についた歩き方の癖は、簡単には取れないんです。

秋月医師:しかも、スクワットやランジも、やり方を間違えたまま頑張り続ければ、変な癖がついたり、痛みにつながったりすることがあります。女性ならヒールを履く機会もあります。歩くことは日常そのものなのに、意外と私たちは歩き方を習っていません。

「たくさん歩く」から「どう歩くか」へ。鍵になるのが股関節

高平教授:そもそも、正しい歩き方、立ち方、座り方、階段の上り方をきちんと教わる機会はほとんどありません。以前は「何歩歩いたか」という量が重視されていましたが、これからは歩き方の質も大事だと思います。

高平教授:例えば、歩幅を広げるには股関節の可動域が必要です。少し速く歩くには筋力が必要です。そして歩行中に身体が左右へ崩れないためにはバランス能力も必要です。つまり、しっかり歩くためには「柔軟性・筋力・バランス」が関係し、その中心に股関節があります。

高平教授:歩数だけを増やしても、身体がうまく使えていなければ疲れやすくなることがあります。歩幅を無理に広げようとして姿勢が崩れたり、速く歩こうとして余計な力が入ったりすれば、かえって動きづらくなることもあります。大切なのは、可動域を保ちながら必要な筋力を使い、身体を安定させて次の一歩へつなげること。歩行は単純に見えて、実は全身の連携で成り立っています。

秋月医師:そこはとても納得します。私自身、歩くことは毎日しているのに、歩き方を教わった記憶はありません。運動というと特別なトレーニングを想像しがちですが、まず毎日繰り返している「立つ」「歩く」を見直すほうが、生活に取り入れやすいのかもしれません。

高平教授:股関節は骨盤と大腿骨をつなぐ大きな関節です。立つ、歩く、しゃがむといった基本動作のたびに働きます。だからこそ、痛みが出てから初めて意識するのではなく、元気なうちから「どう動かしているか」に目を向けてほしいですね。

編集部:股関節を意識するために、日常でできることはありますか。

高平教授:道具を使わないなら、ランジは一つの方法です。足を大きく前に出し、身体をゆっくり沈める。そうすると股関節を前後に使う感覚が分かりやすくなります。ただし、痛みがある方や関節・骨に不安がある方は、無理に行わないでください。回数よりも、どこをどう動かしているかが大切です。

秋月医師:「たくさん歩こう」と言うだけではなく、どう歩くのか。その視点があるだけで、運動の見え方が変わりますね。私は医師ですが、股関節をここまで日常動作の中心として考えたことはありませんでした。

編集部:がんと有酸素運動の話から始まった対談は、いつの間にか「歩くための股関節」へ。後編では、秋月先生が現在関わる骨粗しょう症を入り口に、筋力とバランス、運動を続ける工夫、そして最後に秋月先生の趣味であるゴルフへと話を進めます。

※痛みが強い方、骨粗しょう症や骨折歴がある方、がん治療中・治療後の方は、運動内容や強度について主治医・専門職に相談してください。

参考文献・関連資料

[1]Courneya KS, et al. Structured Exercise after Adjuvant Chemotherapy for Colon Cancer. New England Journal of Medicine. 2025;393:13-25. DOI: 10.1056/NEJMoa2502760

[2]National Cancer Institute. Increased Physical Activity Associated with Lower Risk of 13 Types of Cancer. 2016.(運動とがんに関係する可能性のある代謝・炎症・免疫経路の解説)

編集注:対談の趣旨を損なわない範囲で発言を整理・再構成し、医学的な数値・研究内容は既存原稿で確認済みの公開文献に基づいています。

股関節くん

股関節くんです。股関節やらせてもろてます。

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